ココアブラウン
あたしは昨日やってきたアシスタントの顔を思い浮かべていた。

ほっそりとしたうなじ。黒いスーツ。



険のあるまなざし。


「別に気にしないならいいわ。言いたいことはそれだけだから。
養育費のことちゃんとしてくれないようならこの家の競売も辞さない」


美樹が話し終えたとき、灰皿はいっぱいだった。

フィルターぎりぎりまで燃え尽きた6本の煙草。


ふと上を見ると薄い煙が渦を巻いていた。




ーオンナの感情みたい。所在なさそうでたおやかに見えるのに。いつまでも匂いが残るー



「見送りはいいわ。奥さん、もう少し格好に気を使ったら。
私、仕事柄そういう毛玉の浮き出たようなニット、許せないの」



リビングのドアを閉めるとき美樹は振り返った。




「この家、監獄ね。鳥がわたしか、あなたかの違いだけ」
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