ココアブラウン
新はあたしの頬の涙を手でぬぐってから続けた。



「俺が来たばっかりのころ、君はいつも凛としてた。
かっこよかった。ずっと話したいと思ってた。覚えてないよね。

俺にココア入れてくれた日」

「ココア?」

「そう、到着したその日に右も左もわからない中、誰も助けてくれなかった。そりゃそうだろうね。新人じゃないからさ。てめえでなんとかしろって雰囲気の中、君は俺にココア入れてくれた。大丈夫って聞いてくれたんだ」

「そんなことあった?」

「普通ね、うろうろしてるヤツにあえて声かける女の子いないんだよ。そういう時。下手になつかれると困るし仕事増やすの嫌がるから。ちょっと気の利いた子でもわざわざ何飲むかとか聞いたりしない。お茶かコーヒー入れるんだよ。簡単に済むから。君は俺に何を飲むか聞いてから丁寧にココア入れてニコって笑ったんだ」



新の手があたしの髪をなでる。


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