ココアブラウン
「そのあとすぐ、君は結婚した。幸せになるんだなって思っていた。
誰か一人のものになってその人のためにココア入れて。
今までと同じようにニコって笑って暮らすと思ってた。
それなのに君はどんどん笑わなくなって影ができた。
かといって愚痴をこぼすわけでもなくただ淡々と会社にいる。
なんだか人生をあきらめたように見えるよ。
なんでたった一年でそんなに変わった?
あの日、凛と背筋を伸ばしてた伊藤由香里さんはどこに行っちゃったの?」




新はあたしの瞳の奥を覗き込んだ。



「ゆかちゃん、何で結婚した?」


あたしは答えられなかった。


即答できなかった。




結婚するのが当たり前だから、もう歳だから。




「君が考えていることはなんとなく察しがついてるんだ。適齢期が過ぎそうだから。親がうるさいから。親戚に顔向けできないから。違う?」






「そんな監獄の中で君は今幸せかい?」



言葉はのどの奥につっかえてまるで鉛を呑んだようになにもいえない。

新は黙り込んだあたしをもう一度胸の中にすっぽりと包み込んだ。

それからあたしの耳元でそっとささやいた。






「ゆかちゃん、今日泊まるところあるの?」


その言葉は耳に優しくてあたしは何もかもを新にゆだねた。
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