ココアブラウン
うっすらと東の空が明るくなっていた。

新はあたしの横で眠っていた。

少年の顔。実際の歳よりもずっと若く見えた。

ベッドの前に置かれた鏡にあたし自身が映っていた。


疲れたオンナの顔だった。

目の下にはくっきりとくまが刻まれ目じりには隠すことのできないしわがある。

どんなに取り繕ってもあたしは32歳だった。

本当ならこんな軽はずみなことはしない年齢。

あたしは新の眠りを妨げないようベッドを降りた。

バスタオルを巻きつけ立ち上がる。

肩も胸もはりを失っていた。その体から匂いたつように甘い香りが漂った。



新に愛された余韻。


「ゆかちゃん、起きてるの」


新が体を起こした。

あたしは振り向かずに答えた。


「巻き込んだね。不倫に」

「不倫じゃないだろ」


あたしは驚いて新のほうを見た。

でもメイクの落ちた顔を見せたくなくてすぐに顔を背けた。



「ゆかちゃんがちょっとだけ疲れてて、おぼれた人が何かにしがみつくように俺にすがっただけ。俺はそれに答えただけ」


今度は振り向けなかった。

少しでもいい、あたしのことを好きだと思って欲しかった。


あたしは鏡に写った自分自身を見つめた。
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