ココアブラウン
「ゆかちゃん、伊勢物語の六十九段知ってる?」

「斎宮恬子内親王との密通のところ?」

「そう、斎宮も自分の置かれた環境からすこしだけ抜け出したくてたまたまそばにいた業平を誘ったんだ。ほしいものを手にいれたんだ。今のゆかちゃんと同じ」

「違う、あたしは」

「君を責めてるわけじゃない。だって俺は断らなかったから。君の進んだ道は結果がどうあれ君自身が選んだ道なんだ。そして」

「そして?」


「君の進む道は常に正しい」


新はベッドにもぐりこむと布団を頭からかぶった。

それきり何も言わなかった。



ーあたしの進む道は常に正しい、かー


人はみんなそう思って生きているのだろうか?

恬子内親王も欲しかったものを手に入れたかっただけなんだろうか。

業平へのやむにやまれぬ愛情が爆発して結ばれたのに業平は今の新のように思ったんだろうか。


業平と斎宮恬子内親王、密通のあとどうなったんだっけ?


太陽が顔を出し始める。

あたしは服を身に着けた。

新を起こさないようそっと1104室を後にした。

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