ココアブラウン
「靴とスーツ上下で18万円ですがどうされます?」


あたしの中で膨らんだ気持ちはその言葉で一気に現実に戻った。


-ごめんなさい。値段見てませんでした


言葉は喉元まで出かかった。

でも口にはでなかった。



ウインドウに美樹が来ていたのと同じモカブラウンのスーツがかかっていた。

ちらりと見える裏地はさっき見たものと同じものだった。

とたんにあたしは今このスーツを着た意味を理解した。


「分割でもお支払いできますよ」


躊躇したあたしの心を見透かすように店員が畳み掛ける。


「ちょっと考えさせてください」

「なんでしたらお取り置きしておきましょうか?」

買う気もないんでしょ?店員の態度はそう言っていた。

あたしがスーツを脱ぐ前からハンガーを手にしていつでも架けなおせるように準備していた。


馬鹿にされたくない。


試着したスーツのプライスカードがひらりと翻った。



あたしは迷いを振り切った。


「カード。一括で」
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