ココアブラウン
「先輩、あたしさっき部長に呼ばれたじゃないですか。雄治さんのことちくちく言われちゃいました。ホントおやじはうざいですよね」


ランチタイムの食堂。絵里の食欲は旺盛だ。


定食にサラダ。デザートにフルーツパフェまで平らげてからやっと絵里は話し出した。

「私怒るとどうしても食べちゃう。もてない親父のグチ聞いたらストレスたまりますよ」

「絵里ちゃん、そういうことじゃないと思うよ。変な噂になったらいづらくなるのは絵里ちゃんのほうだし」

「はいはい。じゃ、これからはばれないように気をつけます。で、先輩の心境の変化は?髪の色も服も変えちゃって」

「ちょっと自分を変えたいな、と思っただけよ」

「ふーん、オトコじゃないんですか?」

できるだけさりげなく流したつもりだ。

絵里は気づかないだろう。

「香水を変えるときはオトコを変えるとき。先輩今までつけてなかったのに誰かの気を引こうとしてるんじゃないんですか」


見てないようで見てる。彼女はオンナだ。

「嗅覚って一番原始的な感覚ですからね。どうしてこんなやつってのに惹かれちゃうときってフェロモン出されてるんですよ。人間も動物ですから匂いで感じあってるんです」

「いい匂いに包まれてたら男性とか関係なく気分がいいものだと思ったんだけど」

「先輩。朝香水つけてから自分の匂い意識しました?もうわからないでしょ?ときめいたときにその香り強くなりますよ。だから私、先輩が誰の気を引こうとしてるかは今日中にわかっちゃう」

絵里は部長の忠告には全く耳を貸してはいないようだった。

あたしはこんなに部長に頼まれた仕事はこなせそうにない。

それに絵里と雄治のプライベートになんであたしが口を挟まなければならない?

自由を謳歌してるように見える絵里。


あたしは絵里の強さが欲しい。
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