ココアブラウン
「あたしはただ・・」

「ただ、何?俺の言ってること、間違ってる?」

「きれいになりたかった」

あなたのために、言いたくても続けられない。

あたしにはそう言えるだけの権利はない。

休暇中に新のことを思いながら過ごした時間がさらさらと砂時計のように落ちていった。



「ぜいたく、だよ」


新はグラスを上げて店員を呼んだ。


「同じの、ダブルで」


ずっと黙って聞いていた雄治が立ち上がった。


「新、ちょっと来い」


雄治はカウンターを指差して強引に新を立たせた。


「西田さん、俺ら仕事の 話もあるからちょっとここ外すわ。嫌な思いさせたと思うけど俺からよく言っておくから」


雄治は新の肩を抱くように歩きだした。

新はふらふらと足元が定まっていない。


そんなに飲んだのだろうか。あんなふうに酒に飲まれる新の姿を見たことがなかった。
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