ココアブラウン
「気にすることないですよ、先輩。酔っ払いがくだ巻いただけですからね。気を取り直して飲みましょうよ」


あたしは今どんな顔をしてるのだろう?

練習した流し目も雑誌に載っていた目力も新の心には響かなかった。

新のことを思いながら練習した化粧は楽しかった。

新しい服を着たら冗談めかした口調で話し掛けてくれると思った。



なのに。


あたしがしたことは媚びでぜいたく。



新の目にはあたしは今までどんなふうに映ってた?

真面目、地味、取り柄もない?



ただの同僚なのに均衡を壊したのはあたしだ。



感じたことのなかった心臓の鼓動に調子に乗っただけ、か。


ココアを買ってくれたことも熊野古道でのことも


新にとっては取るに足らないこと。




周囲の景色が急に現実味を失っていった。


この気持ちを忘れさせてくれるなら。







酒も悪いものじゃない。




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