ココアブラウン
あたしはあわててオフィスに戻った。


社内をからっぽにすることがどういう意味を持つのか、絵里は考えないのだろうか。

案の定、電話が鳴る音が廊下中に響いていた。

慌ててドアを開けると事務方のデスクで新が受話器を取るのが見えた。

「ただいま担当に替わります」

新は電話をあたしに押し付けると乱暴に席を立った。


「お電話替わりました、西田です」

「ああ、西田さん、ずいぶん待たせてくれたね。30回は鳴らしたよ」

「申し訳ありません。離席しておりまして」

「新人でもないのに、電話くらいはワンコールで取って欲しいもんだね」



よりによって。

礼儀にうるさい得意先の社長だった。

5分ほどクレームめいたお説教に付き合ったあと、社長はおもむろに話し始めた。

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