愛して欲しいなんて言わない(番外編)
俺は床に座り込んだ

その格好のまま
どれくらいの時間を過ごしたのか
よくわからない

10分だったかもしれないし
30分だったかもしれない

もしかしたら1時間だったかもしれない


俺の背後で
ドアのノックが聞こえた

すぐに立つと
ゆっくりとドアを開けた

「あの子の母親ですが…」

乱れた髪の女が
ドアの向こうに立っていた

首筋にはキスマークが見える

すっかりとれた口紅
ファンデーションの効果はなくなり
シミのある肌が見えていた

女の隣に
大きな影があった

電話ボックスにいた男だ

愛人か

「で?」

俺の言葉に女の眉間に皴が寄った

「部屋にいるんでしょう?」

「ええ、いますよ」

「あとは私が面倒みますから」

「この部屋で?」

「寝てるんでしょ?」

「ええ」

俺は男に目をやる
男は視線をそらすと
喉の奥を鳴らした

「子供の横で
愛人とセックスするなら
帰ってくれない?」

「は?」

女の顔が真っ赤になった
まるで熟れたトマトのように

「聞こえなかった?
愛人とセックスするつもりでいるなら
帰れって言ったんだ

家に帰る準備ができてから
もう一度部屋に来い」

俺は部屋のドアを閉めた
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