愛して欲しいなんて言わない(番外編)
「やっぱりここにいたんですね」

家政婦の鈴子さんが
上着を持って離れに入ってきた

「湯ざめしちゃいますよ」

鈴子さんが俺の肩に
上着をかけてくれる

「俺、高校を卒業したら
一人暮らししようかな?」

「私もそのほうがいいと思います」

「だろ?」

俺は横眼で鈴子さんの顔を見た

家政婦の中で
一番話しやすい人だ

母親のように大きな優しさで
俺を見てくれている

ときには厳しく怒られるが
俺を我が子のように愛してくれる

「明日のお召し物を出しておきました」

鈴子さんがほほ笑んだ

「ありがとう
明日は何のパーティだっけ?」

「申し訳ありません
私にはちょっと…」

「いいんだ
別に、何のパーティだろうが
とくにかわらないから」

俺はため息をついた

中学になってから
父親が催すパーティには出席するようになった

跡取りなら
当り前のことらしい

今のうちから
企業とのつながりを持っておけとか
なんとか
適当に理由をつけては
俺をパーティに引っ張り出す

俺が人でごったがえす
パーティが嫌いだって
知っていて
俺を引きずりまわすんだ

面倒くさい父親だ
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