彼が彼女になった理由(ワケ)
今日、2月13日。
昨日は大変な一日だった気がする。

綾斗は変な事を言うし。
急に怒るし。

あれは本当に本気だったのかな。
今日、綾斗にどんな顔すればいいかな。

昨日の帰りもいつも通りだったから、今日も同じでいいかな。

どうかな、どうかな。
緊張するなー。




『おっはよ、夏波。』

下駄箱に靴をしまう私の後ろから、誰かが通りすがりに挨拶してく。

あれ?
今のは…

『お、おはよ!!』

私の言葉に振り返ったのは、やっぱり綾斗だった。

『朝から声でけーっつうの!!』

意地悪な笑みを浮かべ、負けず劣(オト)らずの大声。

よかった。
いつもの綾斗だ。
心配して損した気分だよ…

『今年も荷物検査あるのかなぁ。』
『あ? 何それ。』
『ほら、去年もバレンタインであったじゃん。 荷物検査!』

生徒指導の塚田先生。
去年のバレンタインで押収したチョコは数え切れない程らしい。

『あったなー、そういや。 あれ絶対に塚田のヒガミだと思わね?』

綾斗は苦笑しながら言う。
私も塚田先生の嫌がらせだと思ってたんだぁ。
だって先生、モテなさそうなんだもん。

『今年は上手く隠してくるらしいよー、塚田対策に!』
『そりゃ、あいつに食わすために作ってねーからなぁ…女子達。』

想像しただけで面白くなっちゃう。
せっかく張り切って検査するのに収穫無しなんて塚田先生、ガッカリするだろうな。

『お前も悪い奴だな。 内心ザマーミロくらいに思ってんだろ、その顔。』
『あ、わかった?』

だって去年、綾斗のチョコ取られそうだったんだもん。

『ま、俺も思ってんだけど! 俺も去年セクハラか、ぐらいに検査されたからさー。』

ヒヒっと笑う綾斗。
昨日の事が嘘のように自然で心地いい。

ずっとこのままでいたいな。
そう思いながら綾斗の隣を歩いた。
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