彼が彼女になった理由(ワケ)
私達の教室の窓際、最後尾の席には皆にとっても人気の男の子がいる。

その人気さと言えば…
まぁ、とりあえず半端ない。

『綾斗。 綾斗ってば! もう昼休み終わっちゃうよ。』
『…あー? 今何時?って何じゃこりゃ!』

最後尾の席の男…改め、綾斗は驚いたように声を上げる。

綾斗が驚いた物。
それは机いっぱいに置かれたクッキー達。
人型、星型、ハート型。
どれも皆、可愛い袋でラッピングされていた。

そんな異様な光景も見慣れたもんだ。
午前中に調理実習のある日は必ずこうなっているのだから。

『しっかし… 置かれて気付かないもん? 綾斗ちょっとニブすぎ。』

一番手前にあったクッキーを手に取り、私はそう言った。

クッキーは美味しそうなバター色。
私が作るクッキーとは大違いだ。
私のはどちらかと言えば小麦色…いや、茶色に近い。
そのくせ味は粉っぽい。

是非、これを作った人物にご指導願いたいと思う。

『夏波(カナミ)は? 夏波は作ってねーの?』

綾斗はクッキーを掻き分け、私の手を見つけると手首を掴んでプラプラと揺さ振った。

『…作ったけど食った。』

そんな綾斗を見下げて言う。

『食ったってお前… せめて「食べた」とか言えよ、女なんだからさぁ。』

苦笑気味に言う綾斗に思わず溜め息が出る。

『別にいいでしょ。 あげる人なんていないんだから。』

クッキーを置かれた事にも気付かない馬鹿な綾斗。
鈍感な綾斗。

綾斗は私の気持ちに絶対に気付かない。
気付けないに決まってる。

『んじゃ次から俺にちょーだい。 名無しの貢ぎもんは恐いけどさ、夏波のは食うから!』

だからそんな軽く言える。
どうせ食べないくせに。

『…上手く出来たらね。』

あの日のチョコレートのように…
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