彼が彼女になった理由(ワケ)
『あ、夏波!』

教室に入ると同時、望が手を上げて呼んだ。
机にはピンク色の小さな紙袋。

あ、そっか。
やっぱ望も今日持ってきたんだ。

『はいこれ、おすそ分けだよ!』

私の予想通り、望はそう言って紙袋を私の前へ移動させた。

嬉しいな…
女の私でも嬉しいんだもん。
男の子ならもっと嬉しいだろうな。

『ありがとー、望。』

望の恋が上手くいくよう、私も願ってるからね…?

ってか、中身は何だろう。
少し悪いなぁと思いながら袋を静かに開ける。

中身は…『ありがとう。』

中身を確認する前に思わず手を止めてしまった。
何故って…
綾斗の声が聞こえたから。
「ありがとう」と…

『ちょ、夏波…』

どうやら望も気付いたみたい。
綾斗が今までに見せた事のない行動に。

『あ、ありがとう! 私、去年も渡したんです。 受け取ってくれるなんて…本当嬉しい…』

綾斗の前に立つ女の子は今にも泣きそう。
あーゆうのを嬉し泣きと言うんだろうな…

って、そんな事はどうでもいい。

綾斗がチョコを受け取った。
私以外の女の子からのチョコを。

去年もその前も、そんな事なかったのに。

『何か変な物でも食べたかねー? 綾斗くん。』

頬杖をつきながら言う望。
そんなふうに言われてしまう程、綾斗の行動は大事件だった。

『さ、さぁ… 何か拾ったんじゃない?』

望の方を向いても、視界の隅は勝手に綾斗をとらえる。
綾斗と綾斗にチョコを渡す女の子。
1人2人3人と増えていく。

そのモテモテぶりにも驚いたけど1番驚いたのは別の事だった。

まさか自分がここまでショック受けるなんて…
思ってもみなかったんだ。
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