彼が彼女になった理由(ワケ)
放課後には綾斗の周りはチョコで溢れていた。
何処から手に入れたのか、大きな紙袋を手にチョコを収容していく。

『すごいじゃん。 今年も。』

机からはみ出て床に転がっていたチョコを拾い、綾斗に差し出す。

『何それ、夏波が作ったの?』
『馬鹿… 下に落ちてたの。』

呆れた。
貰ったものの見掛けくらい覚えなよ。

『ってか珍しいじゃん。 綾斗が受け取るの。』

前の席の椅子を借り、腰を下ろす。
なんとチョコの山で綾斗の顔が見づらくなってしまった。

『別に。 たいした意味ないけど。』

あ、素っ気ない態度。
感じわるー…

山の向こうから綾斗の大きな手が現れ、山を一瞬で崩す。
まるでショベルカーみたい。
削った土は紙袋へ…って感じね。

『ただね、他の子にも目向けようと思って。』

ようやく現れた綾斗の瞳(メ)。
真っ直ぐに私を見ていた。

『昨日告って、少しは意識してくれるかなって思ったけど。』

…え…?
告ってって…

『今日みたいに普段通りされると結構キツイわ。』

喉の奥から絞り出すような低く掠れた声。
悲しいのか、怒ってるのか。
どちらにも思える。

『…アヤ……』

あ、私も掠れ声だ。
上手く声が出せない。
でも何か言わなきゃ綾斗が…

『…悪かったな。 しつこくして…』

綾斗が行ってしまう。
いや…行ってしまった…

紙袋に入れてもらえず机に残ったチョコ。
そして私。

両方、綾斗に見捨てられてしまった。

『ほら… グズグズしてるから…』

早く紙袋に入んないから置いていかれるんだよ?

『ふふ… 私もか…』

綾斗を信じてなかった。
信じて裏切られるのが恐かった。

自分が傷付くのが一番嫌だった。
自分は綾斗を傷付けたのに…

『…あいつ、何処から紙袋手にいれたんだろ… チョコ可哀相じゃん…』

もう一度、綾斗に会いたい。
会って謝りたい。

そして去年の事をちゃんと聞きたい。
綾斗の口から…
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