彼が彼女になった理由(ワケ)
『ただいま〜…』

重い引き戸を開け、中に入る。
つい持ってきてしまったチョコ入りの紙袋を玄関の隅にドンと置いた。

いや、待てよ。
ここに置いたら誰かに食べられてしまいそうだ。

…仕方ない。
私の部屋に置いとくか。

靴を放り投げ、自分の部屋へと向かう。
その途中も数え切れない程の溜め息が出た。

綾斗のあんな顔を見たのは初めてだった。

いつも笑ってる事が多い綾斗。
そんな綾斗にあんな顔をさせたと思うと、私まで泣き出したくなる。

【友達じゃなく ずっと女として見てた】

あんな真剣な顔も。
今考えれば、嘘のはずがないのに…

【悪かったな しつこくして】

ねぇ、綾斗。
まだ間に合うかな。

まだ懲りずに好きでいてくれるかな。

私も…懲りずに綾斗が好きみたいだよ…

『フッ…う…』

綾斗を想って泣くのをやめたあの日。
綾斗に何もあげないと誓ったあの日。

その誓いを破るよ。

明日のバレンタインで綾斗にあげる。
一年分、溜めた想いを…
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