彼が彼女になった理由(ワケ)
【義理はもう欲しくない】

言葉巧みに私の本音を聞き出す綾斗も狡いけど、私はもっと狡い。

自分が傷付くのが嫌で、綾斗を傷付けてきた。

【どうせ皆に配ってる義理だから】

自分を守る事で精一杯だった私。
狡くて卑怯だった。

『…食べて。 本命だから綾斗に食べてもらいたい。』

ずっと言いたかった言葉をようやく言えた。
「わかってました」と言いたそうな余裕のある笑みの綾斗が気に入らないけど…
私はついに言ってやったんだ。

『ありがとう。 時間あるなら家入っていってよ。』

綾斗は少し照れ臭そうに受け取ると、反対の手でポケットから鍵を取り出した。

『待って!』

まだ終わってない。
まだ私はクッキーを渡しただけ。
食べてもらってない。

『今すぐ食べて。 私の前で。』

去年の繰り返しはもう嫌。
綾斗の口に入って、初めて意味があるの。

『何? 今年はそんな自信あんの?』

綾斗は少し困ったように言いながら、ゆっくりとリボンを解いた。
そして一枚、クッキーを手に取り…食べた。

モグモグと小さく動く綾斗の口を食い入るように見た。
噛め、そして飲み込め。
去年の分まで味わって食べればいい。

『まぁ、懐かしい味だよな… 夏波がよくくれた失敗クッキーの味だ。』

ようやく飲み込んだ綾斗は苦笑しながら感想を述べる。

ああ、今年は食べてくれた…

張り詰めていた緊張の糸が解け、そして安心し。
気付けば生暖かいものが頬を伝った。

『ちょッ 嘘だって! 美味いってば!』

悲しいわけでも寂しいわけでもない。
ただ嬉しかった。
嬉しくて涙が出た…

『綾斗… 私もずっと綾斗が好きだった。』
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