彼が彼女になった理由(ワケ)
【好き】
たった1つの言葉がこんなに重いとは思わなかった。

苦しくて、切なくて…
絞り出すように伝えた想いのお返しは…

『俺も! すっげー好き!』

綾斗の満面の笑みと息苦しい程の包容。
綾斗の力強い腕の中に私は涙を拭った。

『後で義理だったとか、もうやめてくれよ?』

苦笑混じりの綾斗。
違うよ。
本当は義理じゃない。

『去年も義理じゃない…』

本当に本命だったんだ。

『でも綾斗が食べてくれなかったのが悔しくて…』

悲しかった。
辛かった。
もう綾斗を想うのを止めたかった。
そして今日まで綾斗への想いを封じてきたんだよ?

『何言ってんだよ。 ちゃんと食ったよ…』
『…嘘だ。』
『嘘じゃない。』

だって綾斗の部屋になかったじゃん。
弟の部屋にあったの、私見たんだよ?

今更そんな事言われても信じられない。

『嘘だと思うなら来いよ。』

綾斗は私の拘束を解くと、代わりに腕を掴んで引いた。

嘘つき扱いに腹を立てたのか、2階の部屋に向かう綾斗は無表情を崩さなかった。

『綾斗、手ぇ痛い…』

部屋に連れてってどうするの?
まさか去年のチョコがそのままとってある、なんて事……無いよね?

わけのわからないまま綾斗の部屋に連れて来られ、扉が閉まる。

『夏波、ちょっとおいで。』

綾斗はデスクを背に手招きする。
近寄った私に、小さな透明の箱が手渡された。

『……指輪?』

クリアケースの中身。
それは※甲丸のシルバーリングだった。
(※外側が丸くなったとてもシンプルなデザインの指輪のこと)

『可愛くないとか文句言うなよ? あんま可愛いのだと俺が恥ずかしいだろ。』

小さなリング、大きなリング。
これはペアリング?
私と…綾斗の…?

『去年言ったろ? ホワイトデー楽しみにしてろって。』

照れ臭そうに髪をかき上げる綾斗の顔。
真っ赤な風船みたい。

『せっかく買ったのに、いきなり義理だなんて言いにくるんじゃねーっての。』

怒ったようにぶっきらぼうな台詞も、その顔じゃだいなしだよ?
綾斗…
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