彼が彼女になった理由(ワケ)
綾斗は何でも受け取った。
焦げたクッキーも崩れたケーキも、食べ物にかかわらずガラクタみたいな物も。

でもそれは、私があげる物だけ。
勝手に置かれたプレゼントには一切手をつけなかった。

自惚れてたんだ。
私は綾斗と一番仲のいい女。
綾斗が唯一呼び捨てする女。
小学校も中学校も一緒だった。

私は綾斗の特別なんだ。
そう思っていた。

あの日あの時まで…


『そんな沢山のクッキーどうすんの?』
『とりあえず持ち帰るけど。 欲しいならやるよ?』

綾斗は平然とそう言うと、私の前でクッキーの入った袋をブラブラさせた。

『要らないし。 そんな誰が作ったかわかんないやつ。』

あの日と同じなのね。
あの日も綾斗はそう言ったのよ。
覚えてる?

【そんな沢山のチョコ。 綾斗食べれるの?】

それは去年のバレンタインデー。
もう1年近く前の事だった。

【とりあえず持ち帰って弟に分けるつもり。】

私の作ったチョコレート。
綾斗はそれだけを鞄に入れ、後のチョコレートは紙袋へまとめた。

【お返し、楽しみにしてろよ】

眩しい程の笑顔は今でも忘れられない。
あの笑顔は私にだけの特別だと思ってたのに…

見つけてしまったんだ。
綾斗の部屋に私のチョコがない事を。
バレンタインから数日経った日だった。

綾斗が学校に忘れていった携帯を届けるために出向いた私。
いけないと解っていながら、弟の部屋を覗いてしまった。

そこにあったのだ。
私が苦労して包んだあのブルーの包装が…

綾斗は何でも受け取った。
クッキーもケーキもガラクタも…

でも、チョコレートは受け取ってもらえなかった。
私の気持ちは綾斗に必要なかったんだ。

【お返し無くていいよ。 どうせ皆に配ってる義理だから】

だから私はあげるのをやめた。
クッキーもケーキもガラクタも…

綾斗に対する私の想いも…
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