彼が彼女になった理由(ワケ)
列車を降り、駅を出る。
一応持ってきた地図だが、わざわざ確認しなくても街を歩く事が出来た。

それにしても足がスースーするな。
スカートって……

こんなん履いてるからか、周りの視線を妙に感じる。
いや、スカートのせいじゃないのか?

もしや俺が男だって、皆気付いてるのか!?
まさか……そんなはず…

背だって162か3くらいしかないし。
声が太くないせいか喉仏は目立たない。

【聖(セイ)といると女として自信なくすー】

前に唯子がそう言ったように、俺はもうどっからどう見ても女だ。

それに、この地元を離れてから2年も経ってる。
俺に気付くやつなんて……多分いない。

割れかけてるアスファルトを踏みながら歩き、俺は赤い屋根の家を見つけた。

2年前の自分が住んでいた家……
でも表札は「鈴木」という何処の誰かもわからない物だった。

ブレスレットに似せたピンクの腕時計は夕方5時ジャスト。
唯子がまだあの日と同じ生活をしてるなら、あの角からコチラへ曲がってくる。

5、4、3、2、1……

『……唯子』

ほら、やっぱり君は来た。

学校を終え電車に乗るために、ここを通る。
時間は5時ジャスト。

そんな唯子を俺は……いつも見てた。

一歩二歩と唯子が近づくと共に脈が早くなっていく。

どうだ?
俺が誰だかわかるか?

『……こんにちわー』

すれ違う人皆に挨拶するのが癖だった唯子。

そうか。
俺にもしてくれるのか。

わかんないんだな、俺が。
俺だよ。
田辺聖だよ。

……お前の元、恋人だろう?
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