ヒサイチ
水族館に入ってすぐの頃にオオサンショウウオが、のそっと存在していた。
その見慣れたようで実は見たことのない魚の前で、ヒサイチは
「俺の親父が学生の頃に河原でキャンプをやったっていう話を聞いたんだけど・・・」
と思い出したように言った。
「夜に鍋をやったらしいのな。何でも火にかけた鍋に、そこにいた奴らが山や川で採ったものをどんどん入れて、闇鍋みたいなことになっちまったらしいんだ。親父はさあ、皆が見ていない隙に山椒魚を鍋に入れて、食べる時には、さぞみんな驚くだろうと思ったんだってさ」