マンホール
「ねぇ、お母さん」


あたしは少し態度のおかしいお母さんに聞き返した。

「なに?」


「どうしてそんなこと聞くの?」


お母さんは下を向いた。そして手を震わして言った。

「これは昔あった話なんだけどね。お母さん、看護婦だったでしょ」


そんな話、初めて聞いた。看護婦だったんだ。お母さんは話を続ける。


「その時の話なんだけど────」


────────お母さんは産婦人科の看護婦だった。赤ちゃんが産まれる瞬間にたまらなく感動し、やりがいのある仕事だったらしい。

そんな中、1人っ子政策が開始され、子供は夫婦に1人だけしか産まれなくなった。それも政府が決めたことだし、仕方ないと思っていた。
< 107 / 116 >

この作品をシェア

pagetop