マンホール
そして菊久乃は静かに呟く。

「血だ…」


しかもそれはまだ真新しいものだった。菊久乃の人差し指にべったりとついている血。


「もしかして…」


あたしはなんだか嫌な予感がした。それがなにかはわからないが、胸がざわざわと騒ぎ出す。


「この蓋動かせるかな?」


菊久乃は手をハンカチで拭くとじぃっとマンホールを見つめた。

そして、


「ちゃんと…閉まってないから動かせると思うよ」



菊久乃はあたしが感じている胸騒ぎをわかっていたんだと思う。マンホールの蓋を動かそうとするあたしの手をとり、止めさせようとした。
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