マンホール
「千夏ー」




誰かが住田千夏を呼んだ。放課後のみんながいない廊下はしんとしていて壁も床も冷たい感じがする。

千夏は振り向いた。自分のことを呼んだ「誰か」を探した。


「あのさ、大島くんのことだけど…本当に知らない?」


それは藤東茜音だった。また「大島くん」の話をしている。やれやれと思いながらも、話を適当に返す。


「知らないよ」



ため息をついてスタスタと歩いていく。茜音のことは嫌いじゃなかったが、言えなかった。そう、本当は知っていたのだ。大島のことを…

でもなぜかみんな知らないって言うし、言えば変な目で見られるかもしれない。それだけは避けたかった。目立つのは千夏の性に合わないのだ。
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