Adagio-四音の奏-

「美瑛行きを決めたのは、講師の柴山拓人の経歴かな。お前、両親が知り合いだったらそれぐらい聞いてるだろ?音大出た後、アメリカやヨーロッパに留学、その後はいろんな国で演奏活動をしていたらしいぞ。で、そんな人がどうして美瑛なんかで音楽講師をやってるのか…。興味あるんだよねぇ。どう?気になるだろ?」

「うーん…どうだろ。両親は柴山さんのこと懐かしいとは言ってたけど、経歴については何も言わなかったんだよね。多少縁があってラッキーくらいなもんかなぁ。」

僕の返事に、碧海は少し残念そうな表情を浮かべた。
実際僕の両親は、柴山拓人に限らず人の経歴云々を重んじる人間ではないのだ。
むしろ、そういう事に関しては無頓着過ぎるくらいだ。
本当に気にならないのか、気にならないそぶりをしているのか…。
子供の僕にもよくはわからない。
そんな訳で、彼の詳しい経歴を聞いたのは今が初めてだったのだ。

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