Adagio-四音の奏-

「こっちに来た頃は野菜の栽培なんて事は何も判らなくてね。土作りから農家の人に手取り足取り教わったんだよ。いろいろ教わっていくうちに、気が付けば夢中になっていたよ。何もかも忘れてしまうほどにね…。」

「何もかも…ですか?」

「ああ。」

僕の問いに頷きながら答えると、先生は再び手を動かし始めた。



「ところで…太一くん、将来は演奏家になるのかい?」

唐突な彼の問いに僕は一瞬ためらった。

< 66 / 75 >

この作品をシェア

pagetop