Adagio-四音の奏-
「ああ…。こんな天気の日はね。関節が痛むんだ。」
彼はそう言いながら、何事も無かったかのようにカゴを持ち直すと歩き出した。
「先生…もしかしてそれで…。」
話しかけようとした僕は、言葉の続きをゴクリと飲み込んだ。
隣で肩を並べて歩いている柴山先生の表情から穏やかな笑みは消えていた。
「変形性肘関節症って知っているかい?肘の使いすぎで起こる軟骨と骨の疾患なんだ。海外で演奏活動をしているときに発症してね。リハビリもしているんだが…なかなか時間がかかってね。」
ハウスの側の倉庫へ歩きながら、先生は故障の経過をまるで他人事の様に淡々と僕に語った。