もう一つの【ゴル裏】〜いつかの公園のベンチで〜
第13章〜約束〜
「じゃあ、そろそろ」と腰を上げかけたのが午後7時前。
上司が居酒屋の勘定を済ましている最中に表に出て来た僕はある事に注意を惹かれた。
(´・ω・`)
(トリニータのレプリカ着ている人が結構居ますね?)
続いて出て来た上司が「もう一件付き合え」と言うので「良いですね」と快く承知した。
胸には何かが引っ掛かったまま。
流しのタクシーを拾い都町へと運転手に告げる。
上司の行きつけの店へ行くつもりだろう。携帯でお店が開いているか確認を取っていた。
その店のママさんはトリニータサポーターで僕もしぃちゃんを連れて度々訪れていた。
移動するタクシーの中から外を見ると、やはりレプリカを着たサポーターが目立つ。
(´・ω・`)
(イベントでもあったのかな?)
僕は今日の試合の事すら思い出せないでいた。
まだ早い時間帯の都町だったが、ここにもやはりレプリカを着た人達がいる。しかも大勢。
どこからか爆竹を鳴らす音が聞こえてくる。
(´・ω・`)
(まさか―――)
店に着くなり僕はママさんに聞いてみた。
(´・ω・`)
「レプリカ着た人が大勢いますけど・・」
ママさんは、今日の大宮戦に勝った事、そしてJ1昇格が決まった事を嬉しそうに笑顔で話してくれた。
(´・ω・`)
「そうなんですか!やりましたね!乾杯しましょう乾杯!」
ここで僕の時計が逆戻りする。
(´・ω・`)
(トリニータがJ1に昇格したら――――)
僕は「あっ!」と大声で叫んだ後、「ちょ!大事な用事を思い出しました!失礼しますお疲れ様です!」と上司に告げ、店を飛び出して行った。
上司の方を振り返る事もなく。
外に出てタクシーを捕まえる。
携帯を会社に置いてきてしまった事を大いに悔やんだ。
とにかくアパートへ帰らねば。
一分でも一秒でも早く。
アパートにはしぃちゃんが居るはずだ。
あの約束を忘れていなければ――。
僕はタクシーの中で焦りに焦っていた。
赤信号がもどかしかった。