もう一つの【ゴル裏】〜いつかの公園のベンチで〜
永遠とも思える時間をタクシーの中で過ごした僕はやっとの思いでアパートへとたどり着いた。
アパートには鍵が掛かっていた。
(´・ω・`)
(あれ?来てないのかな?)
僕は正直ホッとした。
鍵を開け、電気を点けて部屋の中に入っていくと、今朝出て来た時とは明らかに部屋の様子が変わっていた。
ここ一週間、寝る為だけに帰宅していた部屋は散らかりっ放しで足の踏み場もないような状態だったのが綺麗に片付けられている。
キッチンに置きっぱなしだったカップ麺の空の容器や食器等も無くなっていた。
(´・ω・`)
(やっぱり来ていたんですね・・)
僕はしぃちゃんに悪い事をした嫌悪感でいっぱいになり、愚かな自分を呪った。
疲れた足どりで寝室に向かう。ネクタイを外そうとして姿見鏡を見ると、そこには朱い口紅らしき物で大きく『バカ!』と書かれてあった。
僕は一瞬凍り付き、周りは真っ暗になった。
(´・ω・`)
(どうする?考えろ、考えろ!)
ちょっと出掛けただけかも。
部屋には電話は無い。
アパートの下には車は無かった。
と、なればしぃちゃんの駐車場に行こう。
酒屋の前には公衆電話があったからそこから電話してみよう。
僕はとりあえずしぃちゃんの駐車場へと向かった。
ずっと部屋に置いてあったある物が消えていたのにも気付かずに――。
ネクタイも外しかけのまま、上着も着けずに駐車場へと走った。
小さな公園の脇を走っている時に小さな人影がベンチに座っているのが見てとれた。
公園の入口を一旦通り過ぎてしまった僕はゆっくりと後戻り、その人影に近づいて行った。
人影は間違いなくしぃちゃんだった。
公園のベンチに腰掛け、前屈みで手には線香花火を持っていた。
季節外れの線香花火。
あの夏の日、トリニータがJ1に昇格したら一緒にしようね、って買って置いた線香花火。
その線香花火の火の球を落とさないように慎重に右手で持っていた。
冷たい風が線香花火の球を揺らす。
僕がしぃちゃんの目の前に立った途端に火の球は落ちた。