もう一つの【ゴル裏】〜いつかの公園のベンチで〜
僕はタバコが吸いたくて喫煙所へ一人向かった。
そこにはさっきまでゴール裏中央最前列で声を張り上げていたサポーターが数名いた。
僕はその片すみでタバコを取り出しライターで火を点けようとした。が、なかなか火が点かない。
何度かライターをカシャカシャやっていたが、どうしても火は点かなかった。
そんな様子を見ていた一人のサポーターが「どうぞ」と言って自分のライターを差し出してくれた。
僕は「ありがとうございます」と言いライターを受け取りなんとかタバコに火を点ける事ができた。
ライターを返す時に僕は思いきってその人に話しかけてみた。
(´・ω・`)
「すいません、ライターありがとうございました。あの、今日初めてゴール裏に来てみたんですけど応援の凄さにびっくりしました。僕みたいな素人で迷惑でしょうが一緒に応援させて下さい」
その人はタバコの煙を「フーッ」と短く吐き出したあとにぶっきらぼうにこう言った。
(・∀・)
「別に・・素人とか関係ないから・・応援したければすれば良いし」
(´・ω・`)
「はいっ、頑張ります」
その人はタバコを灰皿で揉み消した後、ゴール裏に姿を消して行った。
そろそろ後半が始まる。僕もそそくさと自分の席へと戻って行った。
ちょうど選手達もピッチに戻って来る所だった。
ゴール裏は総立ちで選手達に勇気を与える。
と、さっきライターを貸してくれた人と不意に目が合った。
肩から太鼓を下げている。
声援のせいで何を言ったか聞き取れなかったけど、確かに「ガンバロウゼ」と口元で言っていた。
僕も勇気を貰った。僕も選手達に勇気を与えたい。
(`・ω・´)
「トーリニータッ!トーリニータッ!トーリニータッ!」
突然の大声にしぃちゃんもキョトンとしている様子だったが構いはしない。
こうして運命の後半戦は始まっていった。
キックオフと同時に沸き上がるスタンド。
疲れも癒えてなかろう選手達も必死に一つのボールを追いかける。
一進一退の攻防。無情にも時間は過ぎていく。
大分の一人の選手がピッチにうずくまる。どうやら足が攣っているようだ。
大分ベンチがすかさず動く。
後半15分、MF金本投入。