もう一つの【ゴル裏】〜いつかの公園のベンチで〜
思えば、僕はここビッグアイのゴール裏には初めて来たんだった。ゴール裏人間のしぃちゃんには知り合いが沢山いる。
僕はまだほんの数人しか知らない。
ちょっと不安な気分だ。
席まで行くと鳥栖で会ったしぃちゃんの友人達が僕らを待っていた。この友人達とはあれから何度か食事やカラオケに付き合わされていた。
「しぃをよろしくね」
「この子に彼氏が出来るなんて」
「辛かったら言ってね」
勝手な事を口々に浴びせられた記憶が甦る。
今日はあらかじめ段幕を友人達に預けておいたお陰で張り終わっていた。
挨拶もそこそこに席に着く。
春とは言えどまだ3月の初旬、風通しの良いスタジアムは寒かった。
45,000人収容できるスタジアムは20%位の入りだ。
疎らなゴール裏にも冷たい風が吹いていた。
早く熱くなりたい。熱い試合が観たい。
キックオフはもうすぐだ。
2002J2第2節 大分vs山形の試合は8,511人の観衆が見守られる中、キックオフされた。
開け放たれたビッグアイの屋根から陽射しが眩しくピッチを照らしている。
昨シーズン、山形には一勝もしていない。J1昇格を目指す大分にとっては鬼門の相手であった。それだけに、ホームゲームであるこの試合で叩いておきたい。
大分は今シーズン、ガンバ大阪から岡中勇人と言うGKを獲得していた。元日本代表を努めた事もある期待の選手だ。
DFには三木、サンドロ、若松、そして鳥栖から移籍してきた有村。
MFに西山、ファビーニョ、金本、我らがキャプテン浮氣。
FWは吉田、新潟から移籍のアンドラージャの2トップである。
アンドラージャは第1節の福岡戦でいきなりの2ゴールで大分の勝利に大きく貢献していた。
この4−4−2の布陣で小林監督の率いる大分は快進撃を続ける事になる。
嫌な相手の山形ではあったがホーム開幕戦に相応しく一進一退の攻防を続けていた。18分。吉田が相手GKと交錯する。そのままボールはゴールマウスへ、転々と転がって行く。
一瞬、静まり返るスタジアム。
「ファールか」
誰もがそう思った。
しかし、主審の判定はゴールを認めた。
「ウォォォォ!」
沸き上がるスタジアム。