もう一つの【ゴル裏】〜いつかの公園のベンチで〜
僕は手術中ずっとしぃちゃんの病室にいた。
処置室の前の長イスに座ってても落ち着かなかったし、まして産婦人科の中に男がウロウロするのもどうかと思ったからだ。
しぃちゃんのお母さんは談話室にいる。
時折、処置室の前まで行ったりして様子を伺っていた。
しぃちゃんが処置室から運び出されて来たのは、入室してから2時間後だった。
まだ麻酔が効いてるらしく、眠っていた。
その腕には点滴のチューブが繋がっている。
病室に運び込んできた看護師さんから「30分もしないうちに目覚めると思います。そしたら呼んで下さい」と言付かった。
僕は備え付けのイスに腰掛け、しぃちゃんの顔を覗き込むようにして見ていた。
化粧っ気のない顔は幼く、まだ少女のようだった。
息遣いが規則正しく「スースー」と聞こえる。
(´・ω・`)
(がんばりましたね)
病室の扉を「コンコン」と叩く音に「はい」っと答える。
扉が開いて医師が入ってきた。その後にはお母さんの姿もあった。
「手術は問題なく終わりました。盲腸みたいなもんですから、後はガスが出れば一安心です」
僕とお母さんは医師の説明を真剣な顔で聞いていた。
「何かあればすぐに呼んで下さい――」
「ありがとうございました」と医師を見送る僕とお母さん。
僕はお母さんにイスを譲り「ちょっとタバコを吸って来ます」と言い、病室の外へと出て行った。
さすがに院内の喫煙室を使うのは気がひけた。
病院の外に出て、目の前の自販機で缶コーヒーを買った。
プルタブを引き、一口啜る。喉がカラカラだったのにようやく気がついた。
タバコを一本抜き取りライターで火を付ける。
大きく吸い込み、細く吹き出した。
僕は病院の玄関をずっと見ていた。お腹の大きな女の人が入れ代わり立ち代わりするのを見ていた。
(´・ω・`)
「タバコ・・辞めなきゃな・・」
飲み干した缶コーヒーの中に吸いかけのタバコを突っ込み病院へと戻って行った。
病室の中にはお母さんがイスにじっと座っていた。