もう一つの【ゴル裏】〜いつかの公園のベンチで〜

僕は中央署のソファーでタバコの煙りをくゆらせていた。目を閉じ、大きく吸い込む。頭に昇った血液が下がっていくのがわかる。

そこへ受付の奥から一人の刑事が近付いて来た。
僕と対面のソファーに腰を下ろし、持っていたタバコに火を点けた。

刑事は「失礼ですが――」と前置きをし、僕にいくつかの質問を寄越した。
僕は「面倒臭い」と思いながらもその質問に対して答えていった。

最後に刑事は、事件として扱うなら被害届けを出す必要がある。まずは病院へ行き、診断書を取って――。

(´・ω・`)
「すいませんが刑事さん。僕は善意の第三者なんです。困ってる人が目の前にいたから助けた。ただそれだけなんです。もうここを出たら一切係わり合いになりたくはありません。後は警察の方でよろしくお願いします」

一気にピシャリと言った。

刑事は頭を掻きながら、僕の目をじっと見た。
「いや、そうですか・・」と言って立ち上がり再び受付の奥へと消えて行った。

しぃちゃんに電話しようと思い立ち、玄関から外へ出た。
生温い風が気色悪く僕の身体にまとわり付く。

しぃちゃんの携帯は電源が入ってなかった。味気無いデジタルの音声がそう告げている。

僕は自宅の固定電話にかけ直す。
コール2回でしぃちゃんのお母さんが出た。

「しぃ、出たくないって。何かあったの?喧嘩でもした?」

僕は多少の行き違いがあった。帰り着いているなら安心した。心配掛けてごめんなさい。
と言うような事を話し、おやすみなさいと最後に言い電話を切った。

(´・ω・`)
(くそっ!何やってんだ俺は・・)

これからの事を考えると気が遠くなるような気がした。
全ては自分のせいだ。何とかしなければ――。
しぃちゃんの事が急に愛おしく思えた。手放したくは無かった。



ロビーに戻り再びソファーへ腰を下ろす。
しばらくして二人が出て来た。後ろには複数の刑事がいた。

何でも香織さんが被害届けを出したそうで、今から現場検証へ向かうらしい。
裁判所との兼合いで逮捕状は採れなかったが、旦那が居れば任意で事情を聞く事になるだろう。
香織さんと静香ちゃんは荷物をまとめて今日のうちに実家へと帰る筈だ。

< 66 / 119 >

この作品をシェア

pagetop