もう一つの【ゴル裏】〜いつかの公園のベンチで〜
センターサークルに置かれたボールを鳥栖の選手が小さく蹴り出して試合は再開される。
残り時間は多くない。
相手のパスミスをカットして左サイドを駆け上がるのは有村光史だ。
有村はセンターラインを越えると中央に大きくパスを出す。
待っていたのは西山哲平だった。胸でトラップして足元にボールを収めると前を向き、そのままシュートを撃っていった。
ボールは見事な孤を描き、確実にゴールへと向かって行った。
相手GKのシュナイダーが懸命に手を伸ばす。全身を反らすようにして横に跳ぶ。
ボールは――――。
ボールはGKの後ろのネットで弾む。弾む。弾む。
『うわぁぁぁぁぁぁ!』
歓声とも怒声とも取れる雄叫びが鳥栖スタジアムに響き渡る。
アウェーゴール裏のサポーター達は誰彼ともなくハイタッチを繰り返していた。
『哲平!哲平!哲平!哲平!哲平!哲平!』
ゴールを決めた西山哲平はピッチに倒れ込み、それを仲間達が揉みくちゃにしていた。
鳥栖のGKはボールをゴールネットに蹴り上げ悔しがった。
鳥栖の選手にボールを抱え上げ走り出す者はいなかった。
勝ったと思った試合をたったの2分でひっくり返されたのだから走る気力も残っていないと言うのが本音だろう。
トリニータは残り時間を守備に費やされたが、危なげなく試合終了のホイッスルを聞いた。