【ひな祭り短編-2009-】初恋の味はひなあられ。
体の弱いおばあちゃんを守ってあげられない悔しさや、いつまでも言い返せなかった自分に対してのもどかしさ。
言い返せないなら、せめて自分の胸にずっとしまっておこう。それが、ちっちゃなあたしにできる精一杯の守り方だから。
そう思って、我慢してきたこと。
おばあちゃんの前では笑顔のあたしでいなきゃ。いつ天国に行っちゃうか分からないんだから……。
そう思って、耐えてきたこと。
そんな心の中の悔しさも辛さも、ほんの少し前に初めて会った男の子にさっと持っていかれて。
おばあちゃんに全部話せて、そばで聞いてもらって。あたしの心はヒロ君のおかげで軽くなった。
ヒーローはおせっかい。
ピンチから助けてくれるだけじゃなく、助けた人の心まで救ってくれる。ちゃんと笑顔になるまで見守っていてくれる。
このとき食べたひなあられの味、ぬるくなったお茶、両方とも涙と鼻水の味がしちゃったけど。
だけど、ヒーローの照れくさそうな横顔も仕草も、あたしの胸に深く刻まれたんだ。
初恋の味と、キミと……。