【ひな祭り短編-2009-】初恋の味はひなあられ。
「おばさん、ヒロ君いる?」
近所のヒロ君の家。
背伸びでインターホンを押して、中から出てきたヒロ君のお母さんに聞いた。
「それが……お見送りに行きたくないって駄々こねちゃって。ごめんね、サキちゃん」
「そっか……」
昨日も一緒に遊んだあと、また明日ねっていつものように笑顔で別れたのに。
『サキちゃんがいなくなったって寂しくなんかないやい!』って、そう何度も言ってたのに。
「おばさんも頑張って説得したんだけど。だけど陽路ったら……」
あたしがしゅんとなってうつむくと、おばさんは顔を覗き込むようにして“ごめんね”と笑った。
「きっとサキちゃんには泣いてるとこ見られたくないのよ。男の子だから」
そういえば、あたしは1回もヒロ君が泣いたとこを見たことがない気がする。
幼稚園の運動会の徒競走、ゴール目前で違う子に抜かれちゃったときも、泣きそうな顔はしても泣いてなかった。
そっか、ヒーローは泣かないんだもんね。泣いちゃうヒーローは、ヒロ君の中じゃヒーローじゃないんだ。