【ひな祭り短編-2009-】初恋の味はひなあられ。
「じゃあおばさん、ヒロ君にこれ渡しといて?」
いつもヒーローに助けてもらうばっかりじゃダメなんだ。あたしは今日、ヒーローのヒロ君がいない場所に引っ越しちゃう。
これからはもっと強くならなきゃダメ。おばあちゃんを守れなかった弱い自分から卒業しなくちゃ。
あたしは持っていたひな人形の、お内裏(ダイリ)様のほうをおばさんに差し出した。
「え?でもこれって……」
おばさんも知ってる。このお内裏様がどんなものか……。だから、なかなか受け取ろうとしてくれない。
「いいの!ヒロ君にもらってほしいの!もうお別れだから……」
最後のほうはやっぱり寂しくて溢れた涙で嗚咽混じりだったけど。
今日会えないなら“いつか”会える日のための約束にしたくて。
2人で半分ずつ持っていたら、また“いつか”会える気がして。
「お父さんとお母さんが待ってるから行くね!おばさん、ありがとう。ヒロ君にも言ってね!」
無理やりおばさんの手にお内裏様を持たせると、あたしは涙を服の袖でぬぐいながら走りだした。