【ひな祭り短編-2009-】初恋の味はひなあられ。
豪快に泣きながらお父さんとお母さんが待つ車に乗り込むと、たまらずあたしはお母さんの胸で声を上げて泣いた。
優しく頭をなでて「頑張ったね」と何度も言ってくれたお母さん。
あたしの様子を見て、少し鼻をすすって無言で車を発進させたお父さん。
それから――…
近いうちに取り壊しが決まった、おばあちゃんの家。その庭にひっそりと咲く、早咲きの桜。
6年分の思い出が詰まったこの町から、この日あたしは泣きながら新しい場所へ旅立っていった。
暖かな春の日の、木漏れ日が優しく揺れていたひな祭りの日だった――…。
それから何年もの月日が流れ、あたしはある大きな夢を叶えてこの町に戻ってきた。
おばあちゃんが生きた、そして、ヒーローに出会ったこの町に。
「あ〜、もう!誰もおばあちゃんのお墓、掃除しないんだから!」
この日も暖かな春の、木漏れ日が優しく揺れている日だった。
あたしは、おばあちゃんに報告するためにお墓参りに来ていた。