【ひな祭り短編-2009-】初恋の味はひなあられ。
 
「聞いてよ、おばあちゃん!お父さんったらね、あたしを一人暮らしさせるのに猛反対でさ。なだめるのに苦労したよ〜」


“春野家ノ墓”というあたしの家の墓前で、線香に火をつけながらグチを言う。


おばあちゃんになら、どんなことだって笑って話せるんだ。


ほかの人が親友や飼ってるペットに話せるように、あたしにはおばあちゃんなんだ。


「それでさ、いったん認めると、今度は“毎日電話する”って言いだしちゃって。親バカだよね〜、まったく」


口ではそう言いながらも、本心はお父さんの愛が嬉しかったりするんだけど。


「で、お母さんのほうはさ、全然心配する素振りも見せないの!夫婦逆転かっつーの。ねぇ?」


なんて皮肉を言ってみても、それはお母さんの無言のエールだって分かってるんだけど。


「そうだ。おばあちゃん、お盆にお墓参りに来たときに言ってた彼氏、知ってるでしょ?」


あたしは、そこで手を合わせて心の中だけで報告した。


『“介護の仕事はハードだからやめろ”って言うから振っちゃったよ』


って。
 

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