【ひな祭り短編-2009-】初恋の味はひなあられ。
“田舎町に好んで住まなくても、介護の仕事ならどこでもできるだろう”
就活のため、何度も夜行バスに乗るあたしに、彼は言っていた。
介護の仕事がしたいのに。
おばあちゃんの町に戻って、おばあちゃんが吸っていた空気の中で暮らしたいのに。
お墓の下で眠るおばあちゃんに、近くでちゃんと自立したあたしを見せたいのに。
あたしは、大のおばあちゃん子だったから。
「おばあちゃん、あたしのほうから振ちゃうだなんて驚いてる?」
目を開けて、お墓を見上げた。
「でもね、やっぱりあたしはこの町が好きだからさ。今の時代、女も強くならないと!ヒーローなんて必要ないくらいにさ。なんちゃって」
自分で言っていて、なんだか少し笑えてくる。
小さい頃は泣き虫だったのに、今じゃすごくたくましく育っちゃった。
泣いたぶん小さくなっていたあの頃。今は、泣いたぶん、その倍は笑えるようになった。
あたし、大きくなったんだよ。おばあちゃん……。
「あのヒーローに似てきたのかもしれないね」