【ひな祭り短編-2009-】初恋の味はひなあられ。
 
あたしの初恋は陽路君だった。


その甘酸っぱい記憶を思い出すたび、胸の奥がキュッとする。


今も好きだからとか忘れられないとかじゃなく、いい思い出として胸がジーンとなるんだ。


あたしだっていくつか恋もしてきたし、初恋にこだわっているわけじゃない。


彼を好きだった頃の気持ちを思い出すと、ただ純粋に“好きになってよかったなぁ”って思うだけ。


おばあちゃんの代わりにあたしの成長をずっと見守ってくれていた、あのひな人形。


引っ越すときにお内裏様をあげちゃったから、あたしの手元にはお雛様だけしか残っていない。


お雛様の隣が空いているのを見ると少し寂しい気もするけどね。


でももう、あたしの中じゃヒーローは思い出だから。大事な大事な、初恋の思い出に変わった。





「じゃあね、おばあちゃん。落ち着いたらまた来るよ」


あたしはすっと立ち上がって、おばあちゃんが眠るお墓に手を振った。


もしどこかで会えたなら、そのときは「初恋は陽路君だったよ」なんて笑いながら言うんだろうな。
 

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