【ひな祭り短編-2009-】初恋の味はひなあられ。
……………
それから3週間ほど経とうとしていた、3月の終わり。
無事に専門学校を卒業し、一人暮らしの部屋もだいぶ片付いてきた頃。
あたしは就職先である『すみれ老人ホーム』に初出勤の日を迎えていた。
「今日からお世話になります、春野サキです!未熟な点、至らない点、多々あると思いますが、どうぞよろしくお願いします!」
緊張で胃が引っ繰り返りそうになりながら、スタッフさんたちの前で頭を下げた。
今日からここがあたしの居場所。ずっと夢に見てきた介護の仕事への、本当にこれがはじめの一歩。
温かい拍手で迎えてくれたスタッフさんたちに、あたしの緊張はいつのまにか和らいでいく。
「本当は春野さんのほかにもう1人、今日からスタッフになる子がいるはずなんだけどな……」
すると、あたしを紹介するため横に立っていた部長が辺りをキョロキョロ見回した。
そっか。あたしと同期の人もいるんだ。一緒に頑張ろう。
初日から遅刻するのは別にして、あたしは心強さを感じながらもう1人の新人さんを待った。