【ひな祭り短編-2009-】初恋の味はひなあられ。
緊張というよりは、嬉しさと希望が先走っているような……自信で満ちあふれているその彼。
聞き間違うことのないその名前、あの頃とは比べものにならないほど大人へと成長した容姿。
それでも、サラサラとした栗色の髪と黒い大きな瞳はあの頃と全然変わってなくて……。
「大崎君、バイトから格上げで正規雇用になったからって気を抜かないように。今度遅刻したらまたバイトからやってもらうからな」
「そんなぁ〜、部長〜!」
「ゴマすりしてもダメだからな」
部長は彼の頭を軽く小突いた。
ということは……。
「今日からここで働くんだって?やっと戻ってきたな。よろしく、サキちゃん」
頭の中で状況を整理しようと頑張っていると、彼があたしの名前を口にした。
やっぱり……。
「ヒーローのヒロ君……!?えっ?あ、あのときの……」
「そ!ビックリでしょ?」
あたしが目を丸くして驚いていると、陽路君は得意げに笑った。
それから、初めて会った日と同じように、照れくさそうに鼻をすすった。