【ひな祭り短編-2009-】初恋の味はひなあられ。
 
こういう小さな町……なんて言っては申し訳ないけど、若い人にはつまらない場所かもしれない。


高校卒業を機に、進学や就職で町を離れる人だってたくさんいる。あたしが住んでいた前の町もそうだった。


だけど、陽路君はしっかりとこの町に根を張っている。


「やっと戻ってきたな」って言ってもらえて、それが“こういう日が来ると思ってた”って信じていたように感じて、すごく嬉しい。


いくら6歳まで住んでいた町とはいえ、親元を離れて暮すのは初めてだから。


寂しいし、心細かった。


夢を叶えるための決断で、やる気にも希望にも胸を膨らませていたけど。


だけど、そういう気持ちだけじゃ不安を断ち切れないでいるのも確かだった。


……ありがとう、おばあちゃん。


ここで頑張ろうとするあたしに、おばあちゃんが温かなエールを贈ってくれたんだね。





そうして、あたしは新しい場所で懐かしい顔と並んで仕事をすることにも徐々に慣れていった。


そして、働き始めて1ヶ月。あっという間に桜が満開の季節に変わった。
 

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