【ひな祭り短編-2009-】初恋の味はひなあられ。
あと少し、あと少しだけ、あたしにおばあちゃんを守れるだけの勇気があれば……。
まだ4歳か5歳のあたしは、小さな勇気さえなくて、ただひな人形を抱きしめて泣くだけだった。
そんなある日、いつものようにひな人形をバカにされて泣いていると、見知らぬ男の子が突然目の前に現れた。
いつ庭に入ってきたかも分からない、どこの誰かも分からない、初めて見る男の子だった。
私の家は古い木造の家で、畳部屋の正面は小さな庭だった。お母さんはおばあちゃんの介護で忙しかったから、あたしはそこの縁側で1人で遊んでいた。
そこへ突然男の子が現れて、あっという間に小学生たちを追い払ってくれたんだ。
あたしと同い年くらいで、サラサラした栗色の髪の毛と黒い大きな瞳が印象的だった半ズボンの男の子。
どこから拾ってきたのか、長い木の棒を振り回していた。
女の子に見間違えられそうなくらいかわいいのに、ヒーローみたいに強くてかっこよくて。
あたしは、泣くことも忘れて半ズボンヒーローの大活躍を目で追っていた。