【ひな祭り短編-2009-】初恋の味はひなあられ。
絡まれるのは慣れてなくて。
ちょうど陽路君が助けに入ってくれてよかった。そのうえ、席まで埋めてくれたから大助かり。
ほっとひと安心。
「ところでさ」
「ん?」
一口ビールを飲むと、陽路君が口を開いた。心なしか、ちょっと耳が赤い……かも。
「帰りにさ、久しぶりに親父とおふくろに顔見せてやってよ。きっと喜ぶ」
「うん。いいよ!」
「そっか。うん……そっか」
あたしが二つ返事で“うん”と言うと、お酒が入ったせいなのか、陽路君は嬉しそうに笑った。
それから数時間が過ぎ、飲んで騒いでの歓迎会はお開きになった。
春の夜風は思いのほか冷たくて、酔いを覚ますにはちょうどいい。
あたしと陽路君は、さっき約束したとおりに陽路君の家へ歩いていた。
引っ越しの日以来、一度も会いに来られなくて、ずっと気に掛かっていたんだ。
二十歳になってこっちに戻ってはきたけど、ここ一ヶ月は自分のことで精一杯だったから。
おじさん、元気かな?
おばさん、元気かな?