【ひな祭り短編-2009-】初恋の味はひなあられ。
それからはもう、昔話に花が咲いて、少し顔を出して帰るつもりがすっかり長居してしまった。
「親父、おふくろ、サキちゃん明日も仕事だから、俺、ちょっと送っていくわ!」
なかなか「帰ります」と言いだせないあたしを気遣って、陽路君が席を立ってくれた。
「おじゃましました。また遊びに来ます!」
玄関先まで見送りに来てくれたおじさん・おばさんに、あたしはペコリと頭を下げる。
「サキちゃん、いつでもおいで」
おばさんがあたしの手を握って、そう言ってくれた。
「たまにでいいから、おじさんのお酒の相手しにおいで」
おじさんは上機嫌で手を振ってくれる。
久しぶりの家族の温かさ。そういう優しさに、胸がじんわり温かくなる。
「じゃあ、行くか」
「うん」
陽路君に促されて、あたしはもう一度2人に頭を下げて家をあとにした。
「すげーだろ、うちの両親。あんなにはしゃいじゃって。子どもかっつーの!」
夜道を歩きながら陽路君が言う。