【ひな祭り短編-2009-】初恋の味はひなあられ。
 
「それと……」


暗くてあたしの涙に気づかない陽路君は、そこまで言うとすっと夜空を見上げた。


つられてあたしも見上げる。


涙でぼやけて見える星は、あの頃からちっとも変わっていない。


「変わっていないのは……俺の気持ちも同じ。うちの両親じゃねーけど」

「……え?」


心臓がトクンと跳ねる。


「歓迎会で佐藤さんが言ってたじゃん?俺の初恋の子がどうのこうの……って」

「うん」


そういえば、あたしに似てるって言ってたっけ……。


「あれって、実はサキちゃんのことだったりするんだよね。おばあちゃん思いの優しい子」

「……」

「十何年ぶりに会って、また初恋のときの気持ち思い出して。前にもそれなりに“恋”ってヤツはしたけどさ、初恋の子にはかなわねぇよ……」


ポツポツと言ったあと、陽路君は照れくさそうに鼻をすすった。


……小さな頃から何度も見てきた彼の癖。変わらない癖。


「……あたしがあげたお内裏様、今でも大事にしてくれてる?」


あたしは聞いた。
 

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