【ひな祭り短編-2009-】初恋の味はひなあられ。
それからどれくらい経ったんだろう。お互いに無言のまま、暗い夜道をただ歩いていた。
なんともいえない恥ずかしさが胸を締めつけて、次の言葉がなかなか見つからなくて……。
もどかしいような、じれったいような、そんな感覚が、そのままあたしたち距離になっていた。
縮めようとすれば簡単に縮められる距離なのに、触れようと思えば少し手を伸ばすだけで触れられるのに……。
そんな、ちっぽけな距離。
すると、さっきまでためらいがちに振られていた陽路君の手があたしの右手を優しく包んだ。
「……」
「……」
それでもやっぱり会話はなくて。あたしはただ、その大きな手を握り返しただけだった。
でも……嬉しい。
この距離から始まる恋もいいかもしれない。熱いくらいの陽路君の体温がすごく心地よくて安らぐ。
ここから始めればいいかもしれない。今は、お互いの初恋が実ったことで胸がいっぱいだから。
大人になってからこうして手をつなぐのは初めてだから、このまま陽路君を感じていたい。